スイス・ジュネーブ郊外の「ウォッチランド」。フランク・ミュラーのマニュファクチュールは、伝統的な時計製造の技法と、奔放なクリエイティビティを融合させる場所として知られている。「ヴァンガード レーシング スケルトン」は、その中でも自動車競技へのオマージュを捧げた、まさに腕元のマシンである。
44mm x 53.7mmというトノー型(樽型)ケースは、カーボン、チタン、ステンレススチールなど、レーシングカーに着想を得た素材が選ばれている。厚さ12.7mmのボディに施されたブラックPVD処理は、マシンのエンジンブロックを思わせる無骨な美しさを湛える。ケースサイドのブルーインサートが、ダッシュボードの計器灯のような鮮烈なアクセントを添える。
最大の特徴は、ムーブメントそのものを大胆に刳り貫いたスケルトンダイアルである。整然と並ぶ地板や受けには、自動車のエンジンに施されるようなエンジンターン模様が刻まれ、機械そのものが芸術作品へと昇華している。特筆すべきは、秒表示のデザインだ。タコメーターに着想を得て、秒針は下からスタートし、白い針と赤いチップが「レッドゾーン」を指す瞬間を演出する。この疾走感あふれる表示が、レーシングスピリットをこれ以上なく高めている。
6時位置の日付表示も、数字そのものがスケルトン加工され、視認性を損なわずに軽やかさを追求している。アプライドのアラビア数字はレーシングレッドで縁取られ、ダッシュボードのメーターを彷彿とさせる。
心臓部に搭載される自社製キャリバーMVT 2800-SQ01は、双方向自動巻き機構を備え、28,800振動/時(4Hz)のハイビートで時を刻む。191の部品から構成され、約42時間のパワーリザーブを誇る。地板にはペルラージュ、受けにはコート・ド・ジュネーブが施され、目に見えない部分まで精緻な装飾が行き渡っている。
ストラップは、スエード調のアルカンターラとラバーのハイブリッド構造。自動車の内装を思わせるこの素材が、ケースに二本のネジで統合され、まるでボディと一体化したシートのようなフィット感を生み出す。30mの防水性能は、トラックサイドでの日常使いにも十分対応する。
ヴァンガード レーシング スケルトンは、単なる時計ではない。それは、タコメーターを腕に刻み、レーシングマシンの鼓動を肌で感じるための、機械仕掛けのコックピットなのである。 |