古代ローマの建築は、石と石の間に「隙間」を設けることで、重厚な構造に軽やかさと呼吸を与えた。ブルガリ「オクト ローマ トゥールビヨン」Ref.103032は、この建築哲学を時計製造の次元に昇華させた、世界限定50本の奇跡である 。
デザインの源泉は、ローマのマクセンティウス大聖堂。オクトゴナル(八角形)のケースは、サテン仕上げのチタンによって、幾何学的な厳格さと温かみを併せ持つ 。44mmという直径は、決して小柄ではないが、サファイアクリスタルを贅沢に配したケース構造が、驚くほどの軽やかさを生み出す 。まるで、古代ローマのドームのように、重厚な外見の内側に広がる「空」を見るかのようだ。
サファイアクリスタルのケースバックはもちろんのこと、文字盤全体がスケルトン(完全透かし彫り)仕様である 。この「全透視」構造が、この時計の真骨頂だ。大胆に削り取られた地板の隙間からは、歯車の噛み合い、香箱のぜんまいの巻き具合、そして何よりもトゥールビヨンの優雅な回転が、手に取るように見える。通常の時計なら隠されている「時を刻む」という営みのすべてが、白日のもとに晒されている。この透明性こそが、ブルガリが目指した「建築としての時計」の完成形である。
心臓部に収められるのは、自社製手巻きムーブメント、キャリバーBVL 206 。パワーリザーブは約64時間を誇り、週末を挟んでも正確な時を刻み続ける 。18,000振動/時という伝統的な低振動数は、 パネライコピートゥールビヨンの回転をゆっくりと鑑賞することを許し、まさに「見るため」の複雑機構としての役割を全うする。
ストラップは、ベルベットのような手触りのブラックのアリゲーター(ワニ革)。チタンのバックルで固定され、腕元に吸い付くようなフィット感をもたらす 。防水性能は30m 。
Ref.103032は、時計である前に、一つの彫刻作品だ。身に着ける者の腕は、まるで現代美術館の展示台のように、この透ける建築を支える。イタリアンデザインの神髄とスイス時計製造の精緻さが、限られた50本のためだけに結実したこの一本は、時を超えて、身に着ける者の審美眼を静かに、しかし力強く語りかけるだろう。 |