スイス・ジュネーブ郊外の「ウォッチランド」。フランク・ミュラーのマニュファクチュールは、伝統的な時計製造の技法と、奔放なクリエイティビティを融合させる場所として知られている。その中でも「ヴァンガード」コレクションは、前衛を意味する名にふさわしく、ブランドの象徴であるトノー型(樽型)ケースを現代的に解釈したラインである。「ブラックコブラ」の異名を持つV45 SC DT AC NR BLACK COBRAは、そのコレクションの中でも特にアグレッシブな個性を放つ一本である。
この時計の第一印象は、闇に潜む蛇のごとき威圧感だ。44mm x 53.7mmのステンレススチールケースには、ブラックPVD処理が施され、光を吸い込むようなマットな質感を生み出している。この漆黒のボディに、レッドのアクセントが施されたアラビア数字が浮かび上がる。まるで暗闇で獲物を待つコブラの赤い眼を思わせるこのコントラストが、時計全体に緊張感とエキゾチックな魅力を与えている。
ケースはフランク・ミュラーに特徴的な大胆なトノー型で、ラグレスのデザインがストラップへと流れるように溶け込む。厚さは約12.8mmに抑えられ、存在感がありながらも腕元にしなやかにフィットする。両サイドのブラックインサートが、全体の統一感をさらに高めている。
文字盤の6時位置には、実用的な日付表示窓が配置されている。モデル名の「DT」はデイトを意味し、日常使いにおける利便性を考慮した設計である。秒針はセンターに配され、視認性を確保している。
心臓部には、フランク・ミュラー自社製の自動巻きキャリバーFM 800-DTが搭載されている。28,800振動/時、21石、約42時間のパワーリザーブを誇るこのムーブメントは、地板にはペルラージュ、橋板にはコート・ド・ジュネーブが施されるなど、目に見えない部分にまで伝統的な装飾技法が惜しみなく注がれている。双方向巻き上げのローターシステムにより、効率的な巻き上げを実現する。
ストラップは、ブラックのラバーまたはレザーが組み合わされ、ケースと一体化するようなデザインとなっている。30mの防水性能も備え、日常使いにおける実用性を確保している。
「ブラックコブラ」の異名を持つこの一本は、単なる時計ではない。それは、闇夜に潜む蛇のように、身に着ける者にカリスマ性と危険な魅力を与える、機械仕掛けのジュエリーなのである。 |