1833年の創業以来、約1300ものキャリバーを生み出してきたジャガー・ルクルトは、「時計製造者の時計製造者」として名高い。その膨大なコレクションの中で「マスター トゥールビヨン」は、重力という見えざる敵と戦うための機械芸術の結晶であり、ブランドの技術力と美的感覚が完璧に融合した逸品である。
この時計の核心は、文字盤の6時位置で優雅に回転を続けるトゥールビヨンにある。地球の重力がもたらす誤差を相殺するために考案されたこの機構は、脱進機とテンプ全体を籠ごと回転させることで、あらゆる姿勢での精度を追求する。ジャガー・ルクトルのトゥールビヨンの中でも特筆すべきは、0.5グラム未満という軽量なチタニウム製ケージの採用である 。この超軽量ケージが毎秒1回転の速さで舞い、ムーブメント全体のエネルギー効率と精度を飛躍的に高めている。
モデルによって搭載されるムーブメントは異なるが、多くに採用されるキャリバー978は、2009年に国際クロノメトリー賞を受賞した名機である 。28,800振動/時、約45時間のパワーリザーブを誇り、22Kゴールドのローターには、1851年のロンドン万博でアントワーヌ・ルクルトが受賞した金メダルが刻印されているものもある 。また、トゥールビヨン籠の下には、平らな二層ヒゲゼンマイが搭載され、あらゆる姿勢での等時性を確保する 。
ケース素材はピンクゴールドやプラチナが用いられ、直径は39mmから43mmまでバリエーションがある 。文字盤のデザインも実に多彩だ。2012年に登場したQ1652410は39mmのピンクゴールドケースにシャンパンベージュのサンレイダイアルを組み合わせ、日付表示が15日から16日に切り替わる際にトゥールビヨンを隠さないよう配慮するなど、細部へのこだわりが光る 。一方、2016年発表のRef.1662451は43mmケースにスレートグレーダイアルを採用し、ベゼルには48個のダイヤモンドがセットされるなど、よりドレッシーな表情を見せる 。
2025年には、新たなマスター ウルトラシン トゥールビヨン エナメルが発表された。限定50本のこのモデルは、アントラサイトグレーのグランド・フー・エナメルダイアルに、手作業によるギョーシェ彫りが施されている。180本もの光線が放射状に刻まれ、それぞれが6回の旋盤通過によって彫り出されるこのダイアルは、深みと輝きを同時に湛え、まさに工芸品と呼ぶにふさわしい 。
マスター トゥールビヨンは、複雑機構を搭載しながらも、50mの防水性能を備え、日常使いにも耐える実用性を忘れていない 。過度な装飾に頼らず、機能そのものが美であるというジャガー・ルクトルの哲学が、この時計の随所に息づいている。それは、時を計る道具である前に、人間の叡智と情熱が創り出した、腕元の小さな宇宙なのである。 |