時計は時に、単なる計時道具を超え、芸術と挑戦の領域に踏み込む。リシャール・ミルがフェリペ・マッサとともに生み出した「RM 69ティタン」は、その概念を極限まで推し進めた、まさに「クレイジー」と呼ぶに相応しい驚異の一品である。
この時計の最大の特徴は、その文字盤に横たわる、型破りな「官能的な表示機構」にある。時分表示のディスクの上には、三つの回転する円柱が配置されている。これらには、様々な官能的なフレーズが刻まれている。専用のクラウンを回すと、これらの円柱がゆっくりと回転し、選んだ一つのフレーズだけが窓に表示されるのである。これは、時計の機能を「時刻を伝えること」から「情熱を伝えること」へと根本から変えてしまう、驚くべき発想の転換である。
この独創的な機構を支えるのは、リシャール・ミルならではの先端技術だ。ケースは軽量かつ高強度の5級チタニウム製。文字盤は、機械の核心部がむき出しになったようなスケルトン構造で、複雑に組み上げられた機構の動きをありのままに見せる。
内部には、手巻き式のトゥールビヨンムーブメントが搭載されている。時計技術の頂点であるこの複雑機構でさえ、この時計においては「官能の装置」を動かすための動力源でしかない。
リシャール・ミル RM 69は、単なる時計を超えた「自己表現のための究極の装置」である。それは、常識の枠組みを軽やかに飛び越え、時計に新しい物語性と官能性を吹き込んだ、唯一無二の芸術作品なのである。 |