時計芸術の頂点に位置する複雑機構、トゥールビヨン。しかし、A.ランゲ&ゾーネが「1815 トゥールビヨン」モデル730.025Fにおいて追求したのは、華やかな視覚効果ではない。それは、静謐の中に宿る、比類なき機械の美しさなのである。
この時計の第一印象は、その「静かな」佇まいだ。18金のホワイトゴールドで作られた38.5mmのケースは、控えめでクラシカルな大きさ。文字盤は、深みのあるブラックのエナメルで仕上げられている。エナメル独特の温もりある光沢と、完璧に配置されたバトンインデックスは、ドイツ時計が伝統的に重んじてきた、厳格な機能美を体現する。
しかし、この時計の真髄は、6時位置に配されたトゥールビヨンにある。多くの時計がこの機構を表側で誇示する中、この1815トゥールビョンは、あえて文字盤側からは見えない「裏蓋式」を採用している。この選択には、時計の真の価値は外見の派手さではなく、内部に息づく技術と完成度にある、というランゲの強い哲学が表れている。
ケースバックを開ければ、そこにはもう一つの宇宙が広がる。手彫りで装飾されたケージが悠然と回るトゥールビヨンと、ランゲを代表する「3/4プレート」を飾る完璧なハンドファニシング。それは、所有者だけが鑑賞できる、最高峰のプライベートな芸術なのである。
A.ランゲ&ゾーネ 1815 トゥールビヨンは、時計を「見せるもの」から「理解し、愛でるもの」へと昇華させた一品だ。それは、真の価値が内側にこそ宿ることを知る者だけが手にできる、静かなる栄光なのである。 |