「止まることのない舞踏」。時計技術の最高峰であるトゥールビヨン機構は、重力の誤差を克服するために生まれた、機械式時計の華である。ドイツ最高峰の時計ブランド、A.ランゲ&ゾーネが手掛ける「1815 トゥールビヨン」は、この複雑な機構を、同社独自の美学で純粋なかたちへと昇華させた一枚である。
その最大の特徴は、文字盤側からもその完璧な動きを鑑賞できる「フライング・トゥールビヨン」である。底部を支えるブリッジを排除したこの構造は、複雑な機構が空中に浮遊しているかのような驚異的な視覚効果を生み出す。60秒で一回転するキャリッジは、繊細なまでに磨かれた螺子や歯車と共に、時計職人が追求する「美の極致」を静かに披露する。
文字盤は、銀白色のごつごつとした質感が特徴的な「アージェント銀」仕上げ。清楚な鉄道ミニッツスケールとブルーの鋼製針、そしてレゴのようなアラビア数字は、同社の基礎となった「1815」コレクションの由緒正しいデザインを忠実に継承する。シンプルでありながら深い味わいを持つその表情は、中央で舞うトゥールビヨン機構の華やかさを一層引き立てる。
ケースはプラチナや18Kホワイトゴールドなどの貴金属で仕上げられ、しっくりと手首に収まる。しかし、真の価値はその裏蓋の向こう側にある。3/4プレートに施された華麗な「グラン・パン」模様や、ひとつひとつ手彫りされる「つなぎ」と呼ばれる装飾。それらは、最高峰の時計にのみ許された、比類なき手工芸の美の世界なのである。
A.ランゲ&ゾーネ 1815トゥールビヨンは、単なる高級時計ではない。それは、ドイツ時計製造の復興を支えた確固たる哲学と、複雑機構を完璧な美へと昇華させる、並外れた職人技の結晶である。時を刻む以上に、時計芸術の頂点を静かに刻み続ける、比類なき一本なのだ。 |